『審判』カフカ2018-10-15

2018-10-15 當山日出夫(とうやまひでお)

審判

カフカ.辻瑆(訳).『審判』(岩波文庫).岩波書店.1966
https://www.iwanami.co.jp/book/b247781.html

とにかく読んだのだが……はっきりいって、カフカのこの作品はよくわからなかった。

普通のサラリーマンが突然に逮捕されて、裁判にかけられる。たしかに、いいようのない不条理である。が、その裁判、あるいは、裁判所が、『城』のように明確なイメージで語られることがない。そのような状況に陥ったことはわかるのだが、では、どうだというのであろう。いまひとつ、登場人物に共感できないで終わってしまった。

とはいえ、作品自体は、きわめて読みやすい。だが、カフカの作品は、これが決定稿であるというものがない。翻訳につかってあるのは1946年版。

この作品、個々の章、個々の場面は、明瞭なのであるが、しかし、では、この「小説」全体として何を語ろうとしているのか、それがはっきりしない。何かの寓意のようなものを感じるところがないではないが、これも、カフカを文学史的にどう理解するかということと、不可分なものであるとともいえる。

読みながら付箋をつけた箇所。岩波文庫版で第九章の終わり。

「「だから私は裁判所の者なのだ」と僧は言い、「ならばどうしてあなたに求めることがあろう。裁判所はあなたに何も求めはしないのだ。あなたが来れば迎え、行くならば去らせるだけだ」(p.329)

少なくとも二一世紀の今日において読んでみても、何かしらの文学的感銘とでもいうべきものを、どこかに感じることができる作品でもある。この作品、光文社古典新訳文庫で『訴訟』のタイトルでも別の訳が出ている。こちらも、読んでおきたいと思う。

追記 2018-10-27
『訴訟』(光文社古典新訳文庫)については、
やまもも書斎記 2018年10月27日
『訴訟』カフカ
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2018/10/27/8984271

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