『失われた時を求めて』(4)第二篇「花咲く少女たちのかげにⅡ」プルースト/高遠弘美訳2020-09-05

2020-09-05 當山日出夫(とうやまひでお)

失われた時を求めて(4)

プルースト.高遠弘美(訳).『失われた時を求めて』第二篇「花咲く少女たちのかげにⅡ」(光文社古典新訳文庫).光文社.2016
https://www.kotensinyaku.jp/books/book223/

続きである。
やまもも書斎記 2020年8月29日
『失われた時を求めて』(3)第二篇「花咲く少女たちのかげにⅠ」プルースト/高遠弘美訳
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2020/08/29/9289860

光文社古典新訳文庫版で四冊目である。

収録してあるのは、第二篇「花咲く少女たちのかげに」の「第二部 土地の名・土地」である。

この冊を読むのに、ちょっと時間がかかってしまった。一週間ぐらいかかっただろうか。一昨年、岩波文庫版で読んだときには、学校に出かける用事のあるとき以外は、ひたすら『失われた時を求めて』を読んでいた。このところも、いっきに読み切ってしまったかと覚えている。

再度、光文社古典新訳文庫版で読んでみようと思って読んでいるのだが、確かに、味読するという感じで読んでいくのには、非常にすぐれた翻訳になっていると感じる。だが、そのせいだろうか、じっくりと読むと、なかなか作品世界の中にはいっていけない、ある種のもどかしさのようなものを感じる。だが、一度、読み始めてしばらくすると、その作品のなかにひたってしまうことになるのだが。これが、プルーストを読む魅力というものなのであろうかと思いながら読んでいる。

アルベルチーヌという魅力的な少女が出てくる。だが、この作品に描かれているのは、アルベルチーヌの魅力的の描写ではない。そうではなく、アルベルチーヌを見ている、「私」の意識が描かれているのである。この意味では、読んでいて、なんとなくもどかしい感じがしないでもない。しかし、これがプルーストが描き出した文学世界なのであろう。

ところで、この冊は、バルベックというリゾート地が舞台。そこに登場するいくつかのもの……自転車であったり、海水浴であったり……これらは、この作品の書かれた時代にあっては、その時代の最先端のものであったらしい。この冊の、読書ガイドを読むと、このあたりのことが、詳しく書いてある。

そして、この冊では、海辺と夕焼け空の描写が実に印象的である。

前期の授業もようやく終わった。オンラインの教材配信という形式をとってみたのだが、なんとか無事におわった。今は、個人的には、年で、最もゆっくりできる時のひとつでもあり、また、一番いそがしい時期のひとつでもある。こういうときこそ、重厚な古典を読みたくなる。つづけて、光文社古典新訳文庫版で読み進めるとしよう。

2020年8月6日記

追記 2020-09-14
この続きは、
やまもも書斎記 2020年9月14日
『失われた時を求めて』(5)第三篇「ゲルマントのほうⅠ」プルースト/高遠弘美訳
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2020/09/14/9295313