『千羽鶴』川端康成/新潮文庫2022-02-19

2022年2月19日 當山日出夫(とうやまひでお)

千羽鶴

川端康成.『千羽鶴』(新潮文庫).新潮社.1989(2012.改版)
https://www.shinchosha.co.jp/book/100123/

これは、若い時に読んだかどうか覚えていない。ただ、新潮文庫版の解説によると、「千羽鶴」と「波千鳥」と二つの作品を収録してあるのだが、これが、まとまって一冊の本になるのは、この新潮文庫においてということらしい。川端康成の作品としては、短篇として、いろんな雑誌などに掲載されてきたものを、まとめる時に「千羽鶴」として一緒になり、その続篇が「波千鳥」でああったのだが、「全集」でようやく一緒になり、文庫本でまた一つになったという経緯のようだ。そういえば、この文庫本の刊行は平成になってからであり、他の川端康成の作品とくらべて、比較的新しいことになる。

この作品については、好き嫌いがあるかもしれないと思う。茶の世界である。そして、そこにある不倫関係……父の女であった女生と関係を持ち、その後、さらにその娘と交渉がある……書いてみれば、めちゃめちゃな関係である。しかし、それを、鎌倉を舞台にして、茶の湯、志野茶碗などが出てくるなかで描いてあると、すんなりと読めるものに仕上がっている。なるほど、これが川端康成の文学なのかなと感じるところがある。

川端康成の円熟期の名作ということになるらしいのだが、そうかなと思う。ただ、「千羽鶴」「波千鳥」と読んで、なんとなく終わり方に違和感を感じないではない。これは、取材ノートが盗難にあったということが関係しているらしい。だが、このような終わり方の作品もあっていいのかなという気がする。

川端康成の文学の極致の名作の一つといってよいのだろう。

2022年2月5日記