『アリスが語らないことは』ピーター・スワンソン/務台夏子(訳)2022-02-10

2022年2月10日 當山日出夫(とうやまひでお)

アリスが語らないことは

ピーター・スワンソン.務台夏子(訳).『アリスが語らないことは』(創元推理文庫).東京創元社.2022
http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488173074

東京創元社のピーター・スワンソンの翻訳作品としては、三作目ということになる。創元推理文庫版においては、原題とは別に、登場人物の名前をタイトルにつける方針のようだ。この作品の原題は、「ALL THE BEAUTIFUL LIES」である。そう思って読むせいか、いったい誰がどんな嘘をついているのか、気になる展開の作品である。

そして、これは傑作である。今年(二〇二二)の一月の刊行であるが、たぶん今年の年間ミステリのベストに入るにちがいない。

物語は、二つのストーリーが平行してすすむ。現在の部分と、過去の部分である。この二つのストーリーに共通して登場するのが、アリスという女性。では、はたしてアリスは、どんな嘘をついているのか。いや、もうちょっと厳密に言ってみるならば、いったい何を語っていないのか。

アリスのからんだ二つのストーリーが一つになるとき、事件の真相があきらかになる。これは、見事な作りになっている。一級のミステリといってよい。

この作品、決して少なくない登場人物が出てくるのだが、どの登場人物も人物像がはっきりしている。現在と過去と行ったり来たりする展開ではあるのだが、混乱することなく、読み進められる。このあたりは、『そしてミランダを殺す』の作者だけのことはあると思う。

また、この作品は、古書店が出てくる。そして、有名なミステリ作品も中で登場する。ミステリ好きにとっては、このあたりのサービスがとても興味深い。

今年、他にどのようなミステリ作品が刊行になるかわからないけれども、しかし、ここしばらくのようにアンソニー・ホロヴィッツが一位でなければ、この作品が今年の一位になってもいいと思う。

2022年2月5日記