『草枕』夏目漱石/新潮文庫2023-07-25

2023年7月25日 當山日出夫

草枕

夏目漱石.『草枕』(新潮文庫).新潮社.1950(2005.改版)

ふと『草枕』が読みたくなって手にした。これまでに何度となく読んでいる。漱石の作品のなかで何が一番好きかというと、若いころは『猫』だった。それが、歳をとってきたせいかと思うが、『草枕』がいいと感じるようになった。若いときは、この作品は、どうにも衒学的な感じがあって、あまり好きになれなかったものである。しかし、今になって読むと、漱石がこの作品を書きながら感じていたであろう、詩情とでもいうべきものに共感するようになってきた。

主人公は、画工である。だが、俳句もつくれば、漢詩もつくる。この作品自体が、一つの芸術論になっていると読める。芸術ということについて考え出せばきりがないのだが、この『草枕』で書かれているような芸術の世界はたしかにあってよい。

悠然として南山を見る……なかに、この句がつかってある。憶えたのは、高校のときの古典の授業においてであったろうか。古典教育について、このごろ言われていることは知っているつもりである。特に、古典必要論を語ろうとは思わないが、しかし、若いときに、古典をならい、歳をとってからそれが引用されている作品を読む、時間を飛び越えて、共鳴する詩の世界がある。このような楽しみを、これからの子供たちから奪うことは、あってはならないだろうと思う。

2023年7月8日記

ETV特集「塀の中で手にした“鏡”」2023-07-25

2023年7月25日 當山日出夫

ETV特集 塀の中で手にした“鏡”

刑務所を取材した番組はこれまでにかなり見てきたと思うが、これはいろいろと考えるところがあった。

取材したのは女性の受刑者。外に残してきた子供に、絵本を読み聞かせる。その録音CDをとどける。

一つには、絵本を読むということの意味。絵本を子供に読み聞かせるときに、どんな気持ちで、どんなメッセージを伝えようとして読むことになるのか。これは、番組のメインの題材である女性受刑者ということを離れて、児童文学一般の問題として非常に興味深かった。

それから、この番組でよかったのは、刑期が終了してから後を追跡取材していること。今の時代、元受刑者を、そう簡単に受け入れてくれる社会ではないといえるだろう。また、それぞれの家庭の事情もある。そもそも、なぜ、犯罪を犯して刑務所に入ることになったのか、そこのところから考えるならば、様々な社会的、あるいは、その家庭の要因を考慮しなければならないことになる。

少なくとも、絵本の読み聞かせCD作成ということは、結果としては、いい方向にむかっているらしい。このような取り組みが、これからも続いていってほしいと思う。

2023年7月24日記