『ひよっこ』が終わって2017-10-02

2017-10-02 當山日出夫(とうやまひでお)

NHKの朝ドラ『ひよっこ』が終わった。はじまってから、基本的に毎週ごとに、思ったことなど書いてきた。終わってしまって、最後にふりかえって思うことなどいささか。

私は、このドラマについては、二つの視点から見ていた。一つは、「群像劇」という視点、もう一つは「教養小説」という視点である。

群像劇ということについては、登場人物のそれぞれを最後まで丁寧に描いていたことからも見てとれよう。みね子が主人公のドラマなのだが、みね子に何か事件がおこるということもなく、周辺の登場人物の出来事で、ドラマが進行するということがあった。故郷の奥茨城での同級生、東京での向島電機の乙女寮、そして、赤坂のあかね荘、そこに集う人びとの生活が、じっくりと描かれていたとみている。

そして、重要なことは、基本的に、それらの出来事が、みね子の視点からそう離れることがなかったことにある。あくまでもみね子の視点から見ての、登場人物におこる様々なできごとであった。周辺人物のことを描きつつも、ドラマの中心がみね子であるということは、ゆらぐことはなかった。

次に、教養小説ということ。WEBなどでの評価を見ると、このドラマは、これまでの朝ドラとちがって、ヒロインが何事かを成し遂げるというストーリーではないということが、指摘されている。それはそのとおりであるのだが、では、みね子に成長がないかというとそうではない。奥茨城の高校生からはじまって、東京の向島電機、倒産、すずふり亭、あかね荘、と生活が変わっていくなかで、様々な出会いがあり、恋愛もあり(これは、悲恋におわってしまったが)、最終的には、結婚にいたる。これは、普通の人間の人生である。波瀾万丈の物語ではなかったかもしれないが、しかし、ここには、確実にみね子というひとりの人間の成長の物語がみてとれる。ただ、それが、日常生活に密着していて、ゆっくりとしているだけのことである。

以上の二点が、このドラマの主軸をなすところかと思う。

そして、さらにいえば、このドラマは、きわめて理不尽、不条理を描いてもいた。父(実)の失踪と、記憶喪失である。悪い人の出てこないドラマという指摘もあった。また、特に大きな出来事がおこるわけでもない。しかし、このような人生の理不尽、不条理を描いたドラマは、これはこれとして、かつてあまり例がなかったと思う。

このドラマは、この人生の理不尽、不条理に直面しながらも、けなげに、そして「普通」に生きてきたヒロインの物語なのである。人生の理不尽、不条理があるからこそ、「普通」であることに意味がある。「普通」であることが、きわめて貴重なものになってくる。「普通」であることの意義を描き出した物語になっていたと思うのである。

最後、ドラマは、父(実)の記憶がもどるかどうか、そのきざしのところでおわっていた。これはこれでいいのだろうと思う。これから、このまま記憶がもどらなくても、あるいは、もしもどったとしても、それはそれで、それなりに、新しい幸せな、「家族」の物語が再スタートすることになる、そのような終わり方であった。

もし記憶がもどらなくても、奥茨城で新しく花の栽培をはじめて、妻(美代子)と、新しく家庭を築いていこうとしている。そして、他の家族も、周囲の人びとも、そのような父(実)の生き方を支えている。

また、記憶喪失になって出会った世津子も、もう大丈夫というであろう。あかね荘に住むことになって、そこの住人たちと、新しい生活を始めている。実との関係は、かつてそのような人生の時期があったこととして、きれいな記憶としてしまわれていくことになるようである。

以上、考えてみてきたが、『ひよっこ』は、とにかく「普通」に生きることの価値のすばらしさを描いた作品であったと思う。岡田惠和脚本は、特に波瀾万丈の物語を描くことがない。かつての『ちゅらさん』も『おひさま』も、「普通」に生きた女性の物語であった。その系譜の上に、今回の『ひよっこ』もあると見ておくべきことなのだろうと思う次第である。

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