『大塩平八郎 他三編』森鷗外/岩波文庫2022-05-02

2022年5月2日 當山日出夫(とうやまひでお)

大城平八郎

森鷗外.『大塩平八郎 他三編』(岩波文庫).岩波書店.2022
https://www.iwanami.co.jp/book/b603065.html

今年は、森鷗外の没後一〇〇年である。岩波文庫では、新刊がいくつか出る。『ウィタ・セクスアリス』については、すでに書いた。

やまもも書斎記 2022年4月16日
『ウィタ・セクスアリス』森鷗外/岩波文庫
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2022/04/16/9482074

鷗外の歴史小説はちょっと敷居が高い印象があるのだが、しかし、読んでみると非常に面白い。その面白さは、基本的に次の相反する二点のことにあると思う。

第一に、その冷静で端正な文章である。

鷗外の文章は、みなそうだといっていいのだろうが、きわめて折り目正しい、きちんとした、無駄のない簡潔な文章である。装飾過多という印象ではない。その端正な文章で、淡々と昔あった歴史的なことを語る。その語り口の冷静さが、一つの魅力である。

第二、一方でその小説がドラマチックであること。

文章は端正なのだが、しかし、そこで語られる内容は、きわめてドラマチックである。あるいは、壮絶なドラマであるといってもいいだろうか。それは、時として非常に残酷で凄惨であったりもする。

この相反するともいえる、二つの要素が渾然となったのが、鷗外の歴史小説なのである、と今の私は思っている。

鷗外の歴史小説については、歴史そのままなのか、歴史ばなれなのか……このことがよく言われる。これはこれとして非常に興味深い議論だとは思うのだが、ただ、一人の読者として、現代において読むならば、要するに、鷗外の歴史小説は面白いのである。確かに、部分的に、史実にこだわってやや難解な、あるいは、煩瑣とも感じるところがある。しかし、その細かな歴史的記述の背景にあるのは、ダイナミックな人間のドラマである。その人間のドラマに、ひかれるところがある。

2022年5月1日記

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