『武揚伝 決定版』(中)佐々木譲 ― 2017-12-25
2017-12-25 當山日出夫(とうやまひでお)
続きである。
やまもも書斎記 2017年12月21日
『武揚伝 決定版』(上)佐々木譲
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2017/12/21/8752206
佐々木譲.『武揚伝 決定版』(中)(中公文庫).中央公論新社.2017(中央公論新社.2015)
http://www.chuko.co.jp/bunko/2017/11/206489.html
中巻は、大政奉還、王政復古から、戊辰戦争にいたる過程が描かれる。
読んで思ったことなどいささか。
明治維新の歴史として、大政奉還が徳川側の切り札であった(倒幕運動に対する)であるならば、王政復古は薩長の側のクーデターである。このような歴史の見方を鮮やかに描いている。
それから、西郷隆盛と勝海舟の直談判による、江戸城無血開城の話し。これなど維新史の重要なできごとになるのだろうが、この小説の描くところでは……江戸の治安と支配権を持っているものこそが、日本の政府としての正統性のあかしである、というところから生まれた、妥協の産物……このようにはっきり書いてあるわけではないが、私が読んだ限りの印象では、このようにうけとめることができる。これはこれで、一つの歴史の見方であろうと思う。
そして、榎本武揚は、東北での戊辰戦争の行方にみきりをつけて、蝦夷・北海道に新天地を見いだそうとする。新たな徳川の生きる土地としてである。このあたりは、ちょっと強引かなという気がしないでもない。
たしかに、現代の我々は、明治維新の結果、戊辰戦争の結果を知っている。その歴史の結果を知ったうえで、読者にどのような歴史小説を描いてみせるかが、小説家のうでではある。この意味では、幕藩体制、武士の支配の時代の終わりは、次の廃藩置県、さらには、地租改正というところまで行きつくことになる。その後の自由民権運動を経て、立憲君主国としての近代日本の国の体制ができあがる。(この小説は、どこまで描くのだろうか。)
それにしても、この小説においては、徳川慶喜、勝海舟、西郷隆盛、といった維新史の重要な面々を、あまり表に出さないか、あるいは、描いても否定的な評価で描いている。これはこれとして、幕臣である榎本武揚という立場からの維新史としては、一つの見方なのであろう。
また、この時代において、日本国の正統性はどちらの側にあるのか……薩長の側か、幕府の側か……の観点において、叙述は中立的、どちらかといえば、幕府よりである。これは、幕臣・榎本武揚を主人公とする小説としては、こうなるのだろう。そして、そのいわば内戦状態におちいるとして、諸外国は、局外中立の立場をとるというみきわめ、これは、オランダで国際法を学んだ武揚ならではの視点である。
次は、いよいよ北海道が舞台になるだろう。江戸の徳川の幕臣から、蝦夷(北海道)の、あるいは、日本国の榎本武揚へと変貌することになるのかと思っている。楽しみに読むことにしよう。年内には読み終えることができるだろう。
続きである。
やまもも書斎記 2017年12月21日
『武揚伝 決定版』(上)佐々木譲
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2017/12/21/8752206
佐々木譲.『武揚伝 決定版』(中)(中公文庫).中央公論新社.2017(中央公論新社.2015)
http://www.chuko.co.jp/bunko/2017/11/206489.html
中巻は、大政奉還、王政復古から、戊辰戦争にいたる過程が描かれる。
読んで思ったことなどいささか。
明治維新の歴史として、大政奉還が徳川側の切り札であった(倒幕運動に対する)であるならば、王政復古は薩長の側のクーデターである。このような歴史の見方を鮮やかに描いている。
それから、西郷隆盛と勝海舟の直談判による、江戸城無血開城の話し。これなど維新史の重要なできごとになるのだろうが、この小説の描くところでは……江戸の治安と支配権を持っているものこそが、日本の政府としての正統性のあかしである、というところから生まれた、妥協の産物……このようにはっきり書いてあるわけではないが、私が読んだ限りの印象では、このようにうけとめることができる。これはこれで、一つの歴史の見方であろうと思う。
そして、榎本武揚は、東北での戊辰戦争の行方にみきりをつけて、蝦夷・北海道に新天地を見いだそうとする。新たな徳川の生きる土地としてである。このあたりは、ちょっと強引かなという気がしないでもない。
たしかに、現代の我々は、明治維新の結果、戊辰戦争の結果を知っている。その歴史の結果を知ったうえで、読者にどのような歴史小説を描いてみせるかが、小説家のうでではある。この意味では、幕藩体制、武士の支配の時代の終わりは、次の廃藩置県、さらには、地租改正というところまで行きつくことになる。その後の自由民権運動を経て、立憲君主国としての近代日本の国の体制ができあがる。(この小説は、どこまで描くのだろうか。)
それにしても、この小説においては、徳川慶喜、勝海舟、西郷隆盛、といった維新史の重要な面々を、あまり表に出さないか、あるいは、描いても否定的な評価で描いている。これはこれとして、幕臣である榎本武揚という立場からの維新史としては、一つの見方なのであろう。
また、この時代において、日本国の正統性はどちらの側にあるのか……薩長の側か、幕府の側か……の観点において、叙述は中立的、どちらかといえば、幕府よりである。これは、幕臣・榎本武揚を主人公とする小説としては、こうなるのだろう。そして、そのいわば内戦状態におちいるとして、諸外国は、局外中立の立場をとるというみきわめ、これは、オランダで国際法を学んだ武揚ならではの視点である。
次は、いよいよ北海道が舞台になるだろう。江戸の徳川の幕臣から、蝦夷(北海道)の、あるいは、日本国の榎本武揚へと変貌することになるのかと思っている。楽しみに読むことにしよう。年内には読み終えることができるだろう。
コメント
トラックバック
このエントリのトラックバックURL: http://yamamomo.asablo.jp/blog/2017/12/25/8754718/tb
※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。
コメントをどうぞ
※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。
※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。
※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。