BSスペシャル「ユピック 〜北極域に生きる“真の人間”たち〜」2025-03-20

2025年3月20日 當山日出夫

BSスペシャル ユピック 〜北極域に生きる“真の人間”たち〜

番組の内容とは関係ないことになるかもしれないが、おそらくこの番組の意義は、セントローレンス島にNHKの取材のカメラが入った、ということなのかと思う。この島は、ロシアと国境を接している。海をはさんでロシア領が見える。近い将来、この島は、(冷戦時代とは違った意味で、再び)アメリカとロシアとの、軍事的な対立の最前線になる可能性がある。気候変動によって、北極海の氷が少なくなり、そこが航路として利用できるようになるとすると、この地域の戦略的な価値が大きく変化する。北極海の覇権をねらうロシアと、それをはばもうとするアメリカ側(日本もそれにふくまれるだろうが)との対立が、現実のものとなるかもしれない。

たぶん、取材としては、島のその他の場所(軍事的に意味のあるところ)も映像には残してあると思う。そのうちから、ユピックにかんする部分だけで、編集して番組を作ったということになるのかと、私は理解している。(これは、うがちすぎた見方だろうか。)

このようなこととは別に、ユピックの人びとの生活のドキュメントとして、面白いものだった。表面的には、古くからの生活のスタイルや考え方を残しているユピックの人びとということになっているが、画面で表現しているのは、現代社会のなかに生きる、北極海の孤島に生きる人びと、という印象である。

まず、話していることばが英語である。ユピックのことばも部分的には伝承して残っているようなのだが、その場面は限られている。歌のなかにのこっていたり、狩りの獲物となる動物の名称であったり、ということで、日常的な会話として使っているということではないようだ。また、食事の前に神様にお祈りをしていたのだが、信仰としては、キリスト教ということになるかと思う。

一般的な言い方をすれば、ということであるが、言語と宗教が、民族の根幹をかたちづくるものである、と認識している。それにくわえて、生活のスタイルや習慣というものがある。この意味では、ユピックの人びとは、民族として、自立した存在といえるかどうか、微妙なところかもしれない。

その生活のスタイルも、すっかりアメリカの現代文明の影響をうけるものとなっている。父親と子どもが、アザラシの猟に出かけて、獲物が現れるのを待っている間、子どもはスマホを見ていた。移動にはバギーを使っている。画面に映ったのには、YAMAHAと書いてあった。海に出る船にはエンジンがついているが、SUZUKIと書いてあった。家のなかには、冷蔵庫があり、水道があり、調理は電気かなと思うし、照明もあり、である。食べている料理を見ると、伝統的な料理であるが、お米のご飯かなと思われるものがあったが、どういう穀物なのだろうか。島では、穀物の栽培は出来ないはずである。狩猟には、ライフルを使う。

興味深く思ったのは、セイウチの猟の場面。ライフルでねらうのだが、トリガーをひく右手は素手であった。やはりライフルでの狙撃というのは、指先の微妙な感覚が重要なことになるにちがいない。氷点下の気温であるから、素手で金属に長く触っているのは危険であるが、しかし、猟をするためにはしかたない。

アメリカ政府としては、この島に残った昔の軍隊の残骸を撤去しているということであるが、場合によっては、再度、軍事的に利用することを見越しての整備という側面もあるかと思うが、どうなのだろうか。

私の世代だと、このような番組を見ると、本多勝一の『カナダ・エスキモー』を思い出してしまう。若い人は、知らないだろう。その他、『ニューギニア高地人』『アラビア遊牧民』など、学生のときに読んだ本である。今でも、Kindle版で読むことができる。

2025年3月18日記

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