フロンティア「蘭奢待 天下無双の香りの謎」 ― 2025-06-14
2025年6月14日 當山日出夫
フロンティア 蘭奢待 天下無双の香りの謎
蘭奢待については、NHKでは、以前に「歴史探偵」であつかっている。
やまもも書斎記 2023年11月26日
歴史探偵「蘭奢待」
https://yamamomo.asablo.jp/blog/2023/11/26/9637460
今回の「フロンティア」は、まったく新しく現代における調査の様子である。宮内庁の協力を得ての、蘭奢待の調査研究についてであった。
基本としては、正倉院の宝物は勅封で守られているので、この調査は特別にということになるのだろう。(ただ、時期的なことを見ると、正倉院展での開封に合わせてということになるようである。毎年秋の正倉院展も、単なる展覧会ではなく、形式的には正倉院宝物の曝涼があり、それに付随的に行われているもののはずである。)
蘭奢待の実物を調べると、アクイラリア、という樹木であることが分かる。ここは、樹木の専門家の判断だから、そうなのだろう。この種の樹木は、沈香となる。これまでに見つかった蘭奢待の破片を、特別に分析してみると、八~九世紀のころということになるらしい。炭素の同位体の分析による。これは、考古学などではよく使われる科学的な年代判定の方法である。
沈香は、現在はではベトナムで多くとれる。沈香ハンターというべき専門の人がいて、森の中にわけいって探している。これも、近年では採れなくなっているらしい。また、新たに沈香を人工的に作ることもこころみられているが、あまりうまくいっていないようである。(番組に出てこなかったところを見ると、沈香御殿というのはないのかもしれない。)
SPring8で、蘭奢待の断片の高精度スキャン画像を撮ってみる、というのは、今ではこのようなことも出来る時代になったのかと思う。
また、その断片を特別に加熱して実際に香りを聞いてみて、また、ガスクロマトグラフィーで分析する。その結果として、その成分を知ることができる。その結果は、蘭奢待は、非常に特殊な成分の配合になっているらしい。
さらには、その成分分析をもとに、新しく材料を調合して、香りを再現するこころみもある。
こういう科学的な調査は面白いのだが、それと、日本における香道のことをからめているのは、ちょっと無理があったような気がしないでもない。たしかに、香道というものの成立は室町期以降になり、それには、足利義政が蘭奢待を切り取ったということが、深く関連しているのだろうということは分かる。
だが、香道の文化史ということと、蘭奢待の科学的調査は、とりあえずは別物と思うのだが、どうなのだろうか。
やはり気になるのは、蘭奢待を切り取ったのが、足利義政、織田信長、明治天皇ということなのだが、これらは、その後、どうなったのだろうか、ということである。明治天皇のときのことは、近代になってからのことだから、記録が残っているかと思うのだが、いったいどうなっているのだろうか。
今の時代に、蘭奢待として伝わっているものがあるのだが、このことについては、この番組のなかで一切触れていなかった。できるなら、これらについても、同様の科学的分析をおこなうこともできるだろう。だが、現実の問題としては、伝・蘭奢待、というような形で所有されているのが、ふさわしいのかもしれない。
2025年6月5日記
フロンティア 蘭奢待 天下無双の香りの謎
蘭奢待については、NHKでは、以前に「歴史探偵」であつかっている。
やまもも書斎記 2023年11月26日
歴史探偵「蘭奢待」
https://yamamomo.asablo.jp/blog/2023/11/26/9637460
今回の「フロンティア」は、まったく新しく現代における調査の様子である。宮内庁の協力を得ての、蘭奢待の調査研究についてであった。
基本としては、正倉院の宝物は勅封で守られているので、この調査は特別にということになるのだろう。(ただ、時期的なことを見ると、正倉院展での開封に合わせてということになるようである。毎年秋の正倉院展も、単なる展覧会ではなく、形式的には正倉院宝物の曝涼があり、それに付随的に行われているもののはずである。)
蘭奢待の実物を調べると、アクイラリア、という樹木であることが分かる。ここは、樹木の専門家の判断だから、そうなのだろう。この種の樹木は、沈香となる。これまでに見つかった蘭奢待の破片を、特別に分析してみると、八~九世紀のころということになるらしい。炭素の同位体の分析による。これは、考古学などではよく使われる科学的な年代判定の方法である。
沈香は、現在はではベトナムで多くとれる。沈香ハンターというべき専門の人がいて、森の中にわけいって探している。これも、近年では採れなくなっているらしい。また、新たに沈香を人工的に作ることもこころみられているが、あまりうまくいっていないようである。(番組に出てこなかったところを見ると、沈香御殿というのはないのかもしれない。)
SPring8で、蘭奢待の断片の高精度スキャン画像を撮ってみる、というのは、今ではこのようなことも出来る時代になったのかと思う。
また、その断片を特別に加熱して実際に香りを聞いてみて、また、ガスクロマトグラフィーで分析する。その結果として、その成分を知ることができる。その結果は、蘭奢待は、非常に特殊な成分の配合になっているらしい。
さらには、その成分分析をもとに、新しく材料を調合して、香りを再現するこころみもある。
こういう科学的な調査は面白いのだが、それと、日本における香道のことをからめているのは、ちょっと無理があったような気がしないでもない。たしかに、香道というものの成立は室町期以降になり、それには、足利義政が蘭奢待を切り取ったということが、深く関連しているのだろうということは分かる。
だが、香道の文化史ということと、蘭奢待の科学的調査は、とりあえずは別物と思うのだが、どうなのだろうか。
やはり気になるのは、蘭奢待を切り取ったのが、足利義政、織田信長、明治天皇ということなのだが、これらは、その後、どうなったのだろうか、ということである。明治天皇のときのことは、近代になってからのことだから、記録が残っているかと思うのだが、いったいどうなっているのだろうか。
今の時代に、蘭奢待として伝わっているものがあるのだが、このことについては、この番組のなかで一切触れていなかった。できるなら、これらについても、同様の科学的分析をおこなうこともできるだろう。だが、現実の問題としては、伝・蘭奢待、というような形で所有されているのが、ふさわしいのかもしれない。
2025年6月5日記
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