『ある詐欺師の告白』トーマス・マン2019-02-11

2019-02-11 當山日出夫(とうやまひでお)

トーマス・マン

トーマス・マン.高橋義孝(訳).『ある詐欺師の告白』(「世界の文学」35).中央公論社.1965年

この本も古本で買った。「世界の文学」(中央公論社)のトーマス・マンの巻におさめるのは、
「ある詐欺師の告白-フェリクス・クルルの回想録-」
「トニオ・クレーゲル」
「ヴェニスに死す」
である。

このうち、「ある詐欺師の告白」は、光文社古典新訳文庫でも出ているのだが、あいにくと上下巻のうち下巻が品切れになってしまっている。古書で買うと、なぜだか高い。Kindleでも読めるのだが、私は、あまりKindleで本を読むのが好きではない。古書で「世界の文学」で読むことにした。

読んで思うことは次の二点だろうか。

第一に、抜群に面白い小説であること。読み始め、やや難渋するところが無いではない。だが、我慢して読んでいって、主人公「おれ」が、フランスに移ってくるあたりから、俄然面白くなる。こんな面白い小説はめったにないと感じさせるほどである。

第二に、その面白いストーリーの中に語られる、人生や芸術についての様々な知見。まさにトーマス・マンならではの小説と感じるところである。それが、『魔の山』ではやや退屈な印象を持って読んでしまったのだが、この小説になると、そのような部分はストーリーの中に溶け込んで語られるので、すんなりと読んでいける。

以上の二点が、この小説を読んで思うことである。

この小説は未完に終わっている。1922に初稿が出版され、1954年に決定第三稿の刊行である(解題による)。30年以上にわたって書き継がれてきたこの小説に、著者の小説家としての歩みを見てとることができる。トーマス・マンの世界観、芸術観の凝縮してある作品だと読んで感じる次第である。