『昭和史講義【戦後文化篇】』(上)筒井清忠(編)/ちくま新書2023-01-12

2023年1月12日 當山日出夫

昭和史講義(上)

筒井清忠(編).『昭和史講義【戦後文化篇】』(上).ちくま新書.筑摩書房.2022
https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480074966/

夏に出た本で、上・下ともに買って積んであった。冬休みに時間のある時に読む本として、取り出してきて読んだ。非常に面白く読んだ。まず、上巻から。

上・下になっていて、上巻の方は、論壇・小説・マスコミといったあたりをメインに扱っている。

タイトルだけ書いてみる。

丸山眞男と橋川文三
鶴見俊輔
知識人と内閣調査室
復興・成長の経済思想
福田恆存と保守思想
戦後のベストセラー
獅子文六と復興
石坂洋次郎
石原慎太郎と太陽族
林房雄と三島由紀夫
社会派ミステリー
時代小説の再興
有吉佐和子
小林秀雄
大宅壮一と戦後マスコミ
岡本太郎の芸術
沖縄文化
勤労青年の教養文化
全共闘運動

読んで、これは読んでおきたい、あるいは、読みなおしてみたいと思った本がいくつかある。鶴見俊素見はきちんと読んでおきたい。始めの方に出てくる『日本浪曼派批判序説』(橋川文三)など、読んだのは学生の時のことだった。まだ探せば昔の本を持っているはずである。新しい本もある。これなど、改めて読みなおしてみたいと思う。他には、福田恆存などもそうである。いくつかの著作は読んだことがあるが、まとまっては読んできていない。小林秀雄も読みなおしてみたい。林房雄の『大東亜戦争肯定論』は、昔買ったのを覚えている。まだどこかにあるはずである。

ところで、興味深いことは……戦後の文化史を論ずるとして、では、一般の多くの日本の人びとは、どんな本を読んできたのだろうか、という肝心のところが、曖昧なままになっていることである。確かにベストセラーという著作や小説はあった。その発行部数もだいたい分かっているかもしれない。しかし、それらがその他のどんな本や雑誌と一緒に売られ、どのように読まれたかとなると、今一つはっきりしない。信頼できるデータ、資料が残っていないからである。ここではさらに、貸本屋という存在も考えてみなければならない。

それぞれの論考はとても興味深いものである。それは確かなことなのだが、読み終わって上記のような漠然とした不満は残る。これは、編者、筆者の責任ではない。そのようなことを明らかにする資料が残っていないのであり、あるいは、未開拓の研究分野である、ということなのである。

このようなことを確認するためにでも、この本は一読する価値があると思う。日本近現代における読書史というような領域は、まだ分からないことだらけのようだ。

2022年12月30日記