『完本 チャンバラ時代劇講座 2』橋本治/河出文庫2023-02-24

2023年2月24日 當山日出夫

完本チャンバラ時代劇講座2

橋本治.『完本 チャンバラ時代劇講座 2』(河出文庫).河出書房新社.2023(徳間書店.1986)
https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309419411/

文庫本で二分冊になった二冊目である。一冊目に続けて読んだ。

なぜ、この本がもっと早くに文庫本などで出なかったのだろうか。ひょっとすると著者が、一九八六年に書いたこの本は、もう古いと思っていたのかもしれない。しかし、今の時点で読んでみると、その内容は基本的に古びていない。

無論、かつてのような映画の時代は無くなっている。いや、この本は、かつての映画の全盛期を過ぎた時代になってから、過去を回顧して書いたという趣もある。古い内容をあつかってあるということは、別にマイナスではない。一方、その後の大衆的な娯楽の世界は大きく変わった。何よりもテレビの時代になった。そのテレビも、もはや廃れつつあると言っていいかもしれない。ネット動画配信などが、今の若い人にとっては娯楽の主流と言える時代になっている。

だからこそというべきか、大衆娯楽史、通俗娯楽論、とでもいうべき独自の視点の置き方は、今の時代になってしまっているからこそ、貴重であるかもしれない。

いったい日本の多くの人びと……大衆と言っていいだろう……は、娯楽として何を見てきたのか、また、何を読んできたのか、この重要なところが、近年では分からなくなってしまっている。(あるいは、この方面の研究があるのかもしれないが、一般に知られることはあまり無いようである。)

二冊目になって、『大菩薩峠』(中里介山)について、分析がある。この小説、若い時、その当時刊行になっていた文庫本で読みかけたことがある。しかし、これも、途中で中断してしまった。まあ、もとの小説自体が未完で終わった作品であるから、途中で終わってもいいかもしれないと思い、そのままである。今、『大菩薩峠』を読もうと思えば、比較的安くで手に入るようだ。だが、今から、『大菩薩峠』を読みなおしてみようという気にはなかなかなれないでいる。

チャンバラ映画について論じているのが、この本のメインなのであるが、これを敷衍して、テレビドラマや、時代小説について考えることもできるだろう。ただ、この本で論じられているチャンバラ映画は、かつて存在した過去のものとしてである。テレビドラマについても、NHKの『赤穂浪士』までを論じるにとどまっている。

言うまでもなく著者(橋本治)は亡くなってしまっている。できれば、この本の続きとして、現代大衆娯楽論、通俗文化論を読みたいと思っているのは、私だけではないはずである。ここは、橋本治の他の書いたものなど探して読んでみようかと思っている。

ただ、この本の中には、貸本屋、それから、漫画のことが出てこない。戦前から戦後にかけての、通俗娯楽文化論というのは、まだまだ未開拓な分野として残されているように思える。

2023年1月21日記