「新・爆走風塵〜中国・トラックドライバー 生き残りを賭けて〜」 ― 2024-12-09
2024年12月8日 當山日出夫
ザ・ベストテレビ 「新・爆走風塵〜中国・トラックドライバー 生き残りを賭けて〜」
これは見た。そのときに思ったことは書いてあるので、そのまま以下に転記しておく。
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ラオスからチベットまで六日かけてバナナをトラックで運ぶというのが、近代的な生活であり経済ということなのだろうか。見終わって、ふと思わざるをえない。チベットでは、昔ながらの五体投地で巡礼する人のすがたもある。古代と現代が混在している。
中国の経済、特にその国内をささえるのは、トラック輸送であることは理解できる。どう考えても、鉄道では無理があるだろうし、無論、船は内陸奥地までは行けない。なるほど、これまでの中国の経済発展をささえてきたのは、このようなトラックによる流通があってのことなのかと、いろいろと興味深かった。しかし、それも、近年の中国経済の失速のあおりで、様々な困難があるらしい。
トラック輸送が個人もちのトラックに頼っているというのは、この番組で知った。日本なら、運送業者が引き受けるところである。しかも、その仕事は、今ではスマホで荷主と直接交渉になっている。これでは、デフレになったら、個人事業主ではひとたまりもない。
ラオスでバナナ農園を経営しているのは中国人。それを、中国国内まで運び、さらには、チベットまで運ぶ。その先の一帯一路の経済圏は、内陸のトラック輸送に依存することになる。
バナナ農園を探して行くときのシーン。日本なら、グーグルマップのデータを共有すればいいのかと思うが、それが出来ないらしい。トラックにもナビがついていないようである。これでよく仕事ができるのだろうかと、思ってしまう。(まあ、日本でも自動車にナビが標準でついていて、スマホで地図表示や案内が出来るようになったのは、近年になってからのことではあるが。)
おそらくは、この番組に出てきたような個人トラックが、調整弁となって経済の発展の浮き沈みをささえてきたのだろう。たぶん、これからもこの構造は変わらないかもしれない。今さら、大企業が運送業に手を出そうということはないだろう。
こんな広い中国とその周辺の地域で大量にトラックが走っていて、さて、カーボンニュートラルの議論は、どうなっているのだろう。
それにしても、道路網を整備し、また、それにともなってトラック輸送のためのガソリンスタンドとか、タイヤや自動車部品をあつかう商店や工場があることになる。このような全体的なインフラ整備を、中国はやってきたことになる。これはこれとして、すごいことかもしれないとは思う。
チベットまで行くとなると、当然ながらかなり高い標高になる。ラサで、三〇〇〇メートルを超える。富士山より高い。こんなところを走るトラックのエンジンはどうなっているのだろう。当然、酸素は少ないわけだからターボエンジンでないと難しいのかなと思うが、このあたりの技術的な説明はなかった。
寒くて凍ったエンジンをあためるのに、バーナーで火をあてるというのは、どう考えても乱暴というか、あきらかに危険である。タイヤもボロボロになるまで使っている。よくこんなトラックが走っているものかと感心するところもあった。途中で故障するぐらいならまだいい方で、下手をすると谷底に転落しかねない。実際、トラックの残骸が残っていた。
チベットについて、これが、現在の共産党政権になってから併合された経緯について触れてあったが、これは重要なことだろう。また、そのチベットを支配するために道路工事が必要であり、人民解放軍が多くの人的犠牲をはらって建設した、そう歴史があったことは、知っておくべきである。
登場していた中国人のトラックドライバーの二人。この友情といっていいのだろうか、関係も興味深い。受けた恩義はかならずかえさなければならない。ある意味では中国の人びとの強さ、したたかさの源泉はこのあたりにあるのかもしれない。
最後に、将来はパキスタンまで行くかもしれないと言っていた。一帯一路の行く先としては、中国のトラックが中央アジアや中近東あたりまで行くことになるということなのだろうか。(場所によっては船を使った方がいい。だからこそ、近年の海洋進出ということになるのかとも思うが。)
無論、物資輸送のトラックが走るということは、そのルートを軍事的にも使えるということに他ならない。こういう視点で見ておくことも重要だと思う。
2024年7月12日記
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二回目に見て、思うことは基本的に変わらないのだが、追加で少し書いてみる。
運んだのがバナナというのが、やはり意味があることである。昔読んだ本で印象に残っているのが、岩波新書の『バナナと日本人』(鶴見良行)である。一九八二年の本だが、今でも売っている。世界の食糧、農業、それから、日本人の食生活、このようなことを考えるとき、その原点とでもいうべき名著であると思う。それから時代がたって、ラオスのバナナ農園を中国人が経営し(働いているのは現地の人だろうが)、それをチベットの人が食べる時代になったことは確かなことである。
それから、最初見たときには気づかなかったことなのだが、トラックドライバーの張さんは、チベットでバナナを降ろした後、帰りは何を運んだのだろうか。このことは、非常に重要なことのように思える。ギリギリの経費で走っているトラックである。空荷のままで帰るとは思えない。チベットから何をどこへ運んだのだろうか。これが分かると一帯一路の経済圏の様相が、もっと具体的にイメージできるだろう。また、今のチベットが中国の一部として、どうなっているかも。あるいは、空荷で帰ったのかもしれない。ラオスにバナナを運びに行ったときは、ラオス向けの品物を積んでいなかった。
さらに考えると、空荷で行ったり帰ったりするというのは、物資の流通において非効率である。中国全体の流通ということを考えるとかなりの無駄である。個人所有のトラックで、アプリで直接交渉しての仕事ということなので、こうなるのかもしれない。これが、大規模で全国的な組織を持っている運輸業者だったら、はるかに効率的な方法を考えるだろう。輸送運賃のデフレは起こっても、仕事は効率化しない。これは、中国経済にとってはマイナスでしかない。
違法な闇の燃料(小油)のことでいえば、これがなければ中国国内の物流が回らないという現実がある。だから、警察も見逃さざるをえない。だが、これは、政府や警察への信頼を揺るがすことにもつながる。今の中国で、警察の役割はとても重要だろう。治安の維持というよりも、反政府活動の取り締まりが重要な仕事になっているはずである。トラックを修理しているときに、警察がきて罰金を払っていた。これも、かなり恣意的なことのように思える。警察あるいは政府機関についての市民の信頼がないとすると、この先の中国のゆくすえの重要な問題なのかもしれない。
この番組に出てきたような人たちが、中国の経済発展をささえてきたことは確かなのだろうが、これから、この人たちが「見捨てられた」「忘れられた」と意識するようになると、かなり大きな問題になるかもしれない。今のアメリカでいう、ラストベルトの人たちである。
中国で年をとって病気になるのは、とても大変なことのようである。ドライバーの張さんの父親もがんになって治療費のために借金したという。その負担が、今まで残っている。日本なら、がんになっても標準的な治療であれば、保険適用であるし、高額医療費の補助もある。だが、中国では、がんの治療で財産がなくなってしまうようだ。以前に放送の「ドキュメント72時間」で中国のがん専門病院の入院患者のために食事をつくるためのレンタルキッチンを取材していた。これから中国も急激に少子高齢化社会を迎えるが、いったいどうなるだろうか。
チベットの道は、かなりの数のトラックが走っている。それだけ物流があるということだろう。そして、風景がとても美しい。夜空、ポタラ宮、山々の景色は、とても魅力的である。
この番組を作ったのは、テムジンである。私が、テムジンという会社のことを意識するようになったのは、ドラマの『開拓者たち』を見てからのことになる。満島ひかりが主演の、中国満州の開拓農民を描いたドラマである。テムジンは、中国関係ではいい番組を作る。「映像の世紀バタフライエフェクト」でも、印象に残る番組をいくつか作っている。テレサ・テンを扱った回も、テムジンの制作だった。
2024年12月7日記
ザ・ベストテレビ 「新・爆走風塵〜中国・トラックドライバー 生き残りを賭けて〜」
これは見た。そのときに思ったことは書いてあるので、そのまま以下に転記しておく。
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ラオスからチベットまで六日かけてバナナをトラックで運ぶというのが、近代的な生活であり経済ということなのだろうか。見終わって、ふと思わざるをえない。チベットでは、昔ながらの五体投地で巡礼する人のすがたもある。古代と現代が混在している。
中国の経済、特にその国内をささえるのは、トラック輸送であることは理解できる。どう考えても、鉄道では無理があるだろうし、無論、船は内陸奥地までは行けない。なるほど、これまでの中国の経済発展をささえてきたのは、このようなトラックによる流通があってのことなのかと、いろいろと興味深かった。しかし、それも、近年の中国経済の失速のあおりで、様々な困難があるらしい。
トラック輸送が個人もちのトラックに頼っているというのは、この番組で知った。日本なら、運送業者が引き受けるところである。しかも、その仕事は、今ではスマホで荷主と直接交渉になっている。これでは、デフレになったら、個人事業主ではひとたまりもない。
ラオスでバナナ農園を経営しているのは中国人。それを、中国国内まで運び、さらには、チベットまで運ぶ。その先の一帯一路の経済圏は、内陸のトラック輸送に依存することになる。
バナナ農園を探して行くときのシーン。日本なら、グーグルマップのデータを共有すればいいのかと思うが、それが出来ないらしい。トラックにもナビがついていないようである。これでよく仕事ができるのだろうかと、思ってしまう。(まあ、日本でも自動車にナビが標準でついていて、スマホで地図表示や案内が出来るようになったのは、近年になってからのことではあるが。)
おそらくは、この番組に出てきたような個人トラックが、調整弁となって経済の発展の浮き沈みをささえてきたのだろう。たぶん、これからもこの構造は変わらないかもしれない。今さら、大企業が運送業に手を出そうということはないだろう。
こんな広い中国とその周辺の地域で大量にトラックが走っていて、さて、カーボンニュートラルの議論は、どうなっているのだろう。
それにしても、道路網を整備し、また、それにともなってトラック輸送のためのガソリンスタンドとか、タイヤや自動車部品をあつかう商店や工場があることになる。このような全体的なインフラ整備を、中国はやってきたことになる。これはこれとして、すごいことかもしれないとは思う。
チベットまで行くとなると、当然ながらかなり高い標高になる。ラサで、三〇〇〇メートルを超える。富士山より高い。こんなところを走るトラックのエンジンはどうなっているのだろう。当然、酸素は少ないわけだからターボエンジンでないと難しいのかなと思うが、このあたりの技術的な説明はなかった。
寒くて凍ったエンジンをあためるのに、バーナーで火をあてるというのは、どう考えても乱暴というか、あきらかに危険である。タイヤもボロボロになるまで使っている。よくこんなトラックが走っているものかと感心するところもあった。途中で故障するぐらいならまだいい方で、下手をすると谷底に転落しかねない。実際、トラックの残骸が残っていた。
チベットについて、これが、現在の共産党政権になってから併合された経緯について触れてあったが、これは重要なことだろう。また、そのチベットを支配するために道路工事が必要であり、人民解放軍が多くの人的犠牲をはらって建設した、そう歴史があったことは、知っておくべきである。
登場していた中国人のトラックドライバーの二人。この友情といっていいのだろうか、関係も興味深い。受けた恩義はかならずかえさなければならない。ある意味では中国の人びとの強さ、したたかさの源泉はこのあたりにあるのかもしれない。
最後に、将来はパキスタンまで行くかもしれないと言っていた。一帯一路の行く先としては、中国のトラックが中央アジアや中近東あたりまで行くことになるということなのだろうか。(場所によっては船を使った方がいい。だからこそ、近年の海洋進出ということになるのかとも思うが。)
無論、物資輸送のトラックが走るということは、そのルートを軍事的にも使えるということに他ならない。こういう視点で見ておくことも重要だと思う。
2024年7月12日記
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二回目に見て、思うことは基本的に変わらないのだが、追加で少し書いてみる。
運んだのがバナナというのが、やはり意味があることである。昔読んだ本で印象に残っているのが、岩波新書の『バナナと日本人』(鶴見良行)である。一九八二年の本だが、今でも売っている。世界の食糧、農業、それから、日本人の食生活、このようなことを考えるとき、その原点とでもいうべき名著であると思う。それから時代がたって、ラオスのバナナ農園を中国人が経営し(働いているのは現地の人だろうが)、それをチベットの人が食べる時代になったことは確かなことである。
それから、最初見たときには気づかなかったことなのだが、トラックドライバーの張さんは、チベットでバナナを降ろした後、帰りは何を運んだのだろうか。このことは、非常に重要なことのように思える。ギリギリの経費で走っているトラックである。空荷のままで帰るとは思えない。チベットから何をどこへ運んだのだろうか。これが分かると一帯一路の経済圏の様相が、もっと具体的にイメージできるだろう。また、今のチベットが中国の一部として、どうなっているかも。あるいは、空荷で帰ったのかもしれない。ラオスにバナナを運びに行ったときは、ラオス向けの品物を積んでいなかった。
さらに考えると、空荷で行ったり帰ったりするというのは、物資の流通において非効率である。中国全体の流通ということを考えるとかなりの無駄である。個人所有のトラックで、アプリで直接交渉しての仕事ということなので、こうなるのかもしれない。これが、大規模で全国的な組織を持っている運輸業者だったら、はるかに効率的な方法を考えるだろう。輸送運賃のデフレは起こっても、仕事は効率化しない。これは、中国経済にとってはマイナスでしかない。
違法な闇の燃料(小油)のことでいえば、これがなければ中国国内の物流が回らないという現実がある。だから、警察も見逃さざるをえない。だが、これは、政府や警察への信頼を揺るがすことにもつながる。今の中国で、警察の役割はとても重要だろう。治安の維持というよりも、反政府活動の取り締まりが重要な仕事になっているはずである。トラックを修理しているときに、警察がきて罰金を払っていた。これも、かなり恣意的なことのように思える。警察あるいは政府機関についての市民の信頼がないとすると、この先の中国のゆくすえの重要な問題なのかもしれない。
この番組に出てきたような人たちが、中国の経済発展をささえてきたことは確かなのだろうが、これから、この人たちが「見捨てられた」「忘れられた」と意識するようになると、かなり大きな問題になるかもしれない。今のアメリカでいう、ラストベルトの人たちである。
中国で年をとって病気になるのは、とても大変なことのようである。ドライバーの張さんの父親もがんになって治療費のために借金したという。その負担が、今まで残っている。日本なら、がんになっても標準的な治療であれば、保険適用であるし、高額医療費の補助もある。だが、中国では、がんの治療で財産がなくなってしまうようだ。以前に放送の「ドキュメント72時間」で中国のがん専門病院の入院患者のために食事をつくるためのレンタルキッチンを取材していた。これから中国も急激に少子高齢化社会を迎えるが、いったいどうなるだろうか。
チベットの道は、かなりの数のトラックが走っている。それだけ物流があるということだろう。そして、風景がとても美しい。夜空、ポタラ宮、山々の景色は、とても魅力的である。
この番組を作ったのは、テムジンである。私が、テムジンという会社のことを意識するようになったのは、ドラマの『開拓者たち』を見てからのことになる。満島ひかりが主演の、中国満州の開拓農民を描いたドラマである。テムジンは、中国関係ではいい番組を作る。「映像の世紀バタフライエフェクト」でも、印象に残る番組をいくつか作っている。テレサ・テンを扱った回も、テムジンの制作だった。
2024年12月7日記
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