「破綻の航跡 “暁の宇品” 陸軍船舶部隊の戦争」2024-12-09

2024年12月9日 當山日出夫

BSスペシャル 破綻の航跡 “暁の宇品” 陸軍船舶部隊の戦争

『暁の宇品』(堀川恵子)は、大佛次郎賞をとったときに買った本である。(しまいこんでしまったままになっているのだが。)

太平洋戦争における日本軍の戦死者の多くが、戦病死、もっと有り体にいえば餓死であったことは、よく言われている。拡大しすぎた戦線に、補給路の確保ができなかった。日本軍が軽視したことの一つが、兵站、ロジスティックス、であったということは、いろんなところから指摘されていることである。(さらには、インテリジェンスの欠如もあるだろう。根本的には、戦争にいたるまでの国際情勢の読み間違い、判断の失敗ということになるし、また、暗号が解読されていることに気づかなかったということもあるかと思うが。)

兵員や武器を輸送するだけが、兵站の仕事ではない。食糧を始めとする多くの物資や人員の輸送が不可欠である。この物資の輸送は、行きだけでなく帰りもある。太平洋、東南アジアに、戦線を拡大する構想のなかで、ロジスティックスをどう確保するかという観点が、根本的に欠如していたことは、致命的であったことになる。その典型として、インパール作戦があり、ガダルカナル島のことがある。燃料がなければ動かないのは、軍艦や戦闘機だけではない。兵員、その他の物資を輸送する、船舶も動けない。そのための燃料の確保は、どう考えられていたのだろうか。

海上輸送について、輸送は陸軍の仕事で、その護衛は海軍の仕事、という分担は、いかにも日本軍の考えたことという気がする。制海権、制空権、が完全に確保さていなければ、戦争の遂行は不可能であることは、素人目にも判断できることであると思うのだが。

輸送用の船舶の多くは、民間から徴用されたものである。(この視点から、太平洋戦争のことを見るということは、これまでにもあった。)

上陸用舟艇というと、私などは、連合軍のノルマンディー上陸作戦のことを思ってしまうのだが、そのもとになったのは、日本が先がけて開発した大発(大発動艇)であった。これは、たしかに、太平洋戦争の初期の段階では、効果的に使われたということになる。だが、現地までの輸送と航路の安全の継続的な確保という視点がなかった。(Uボートによる輸送船攻撃ということは、第一次大戦のときの教訓として学ぶべきところがあったはずだと思うのだが。)

マルレのことが出てきていた。爆雷を積んだ木製モーターボートである。生還を期しがたい、という意味では特攻というべきかもしれない。

南方の戦場で、『野火』(大岡昇平)に描かれていたことが実際にあったということを、当事者が自ら語っているのは印象的である。聞かれることだろうから、聞かれるまえに話すということであった。

余計なことを考えると……いわゆる台湾有事(狭い意味での具体的な戦争)となった場合、南西諸島の島の取り合いになる可能性がある。そのとき、自衛隊は、どうやって兵員や物資を輸送することになるのだろうか。今のところ、北海道にいる部隊を移動させるのに、民間の輸送船やフェリーなどを使うぐらいしか方法はないようである。といって、自前で、普段からそのための船舶を確保しておくということも、合理的ではない。その輸送にあたる船員(民間人)などの、法的な問題はどうなっているのだろうか。さらには、戦場となる(かもしれない)島からの、住民の避難も必要になる。これらの輸送計画、そして、そのための制海権、制空権の確保ということは、どれぐらい考えられているのだろうか。その他、いわゆるシーレーン防衛ということまで視野にいれれば、国防ということは、簡単なことではない。絶望的であるとまでは言いたくないけれど。

2024年12月6日記

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