『それまでの明日』原尞2018-03-10

2018-03-10 當山日出夫(とうやまひでお)

それまでの明日

原尞.『それまでの明日』.早川書房.2018
http://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000013841/

期待して読んだのだが……評価としては微妙。読んで思うところは、次の二点になる。

第一に、ハードボイルドとしては、傑作といってよい。探偵・沢崎のもとにおとずれる、ある紳士。その依頼によって、沢崎は行動することになる。そして、まきこまれる、事件。さらに謎を追って、沢崎は行動する。

その沢崎の行動が、主人公(探偵・沢崎)の視点から詳細に語られる。

時代設定としては、21世紀になってからのことになる。だが、この沢崎だけは、前世紀から時間がとまったままのようである。携帯電話も持っていない、ということになっている。(このあたり、『愚か者死すべし』では、携帯電話が重要な役割を担っている描写があったので、どうかなと思う気がしないでもない。)

ともあれ、沢崎を主人公とした、かっこいい男の物語としては、十分に成功している。

第二に、その一方で、ミステリとしての「謎解き」の要素が希薄である。「犯人」は最後まで、ベールの向こうにいるように書かれている。これを「本格」を期待して読むと、ちょっと残念な気がする。

『そして夜は甦る』『私が殺した少女』などでは、「謎解き」の要素を濃く持っていた。それが、ハードボイルドの文体のなかで、緻密に語られていた。だが、この『それまでの明日』は、そのような「本格」ではない。

以上の二点であろうか。総合的には、多少の不満は残るものの、沢崎の再登場作品ということで、私としては、評価しておきたい。

この作品、これまでの原尞の作品を読んでいる人間には、十分に楽しめるような登場人物の配置になっている。ちょっと気になったのは、愛車・ブルーバードが登場しなくなってしまったこと(その理由については、作中で説明がある)。そして、相変わらずの煙草。この小説ほど、現代において、煙草を吸うシーンの多い小説はないのではなかろうか。

また、この小説ではじめて原尞を読んだとい人には、さかのぼって、初期の『そして夜は甦る』からのいくつかを読んでもらいたいと思う。我が国におけるハードボイルドの傑作であり、また「本格」として読んでも、十分に評価できる作品である。

この作品、現代を舞台にしているが、「今」ではない。出てくるのは、携帯電話。スマホではない。そのあたりちょっと気になって読んでいったのだが、その理由は、最後になってわかる。

ことしのミステリのベストに入っていい作品だと思う。

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。

名前:
メールアドレス:
URL:
次の質問に答えてください:
このブログの名称の平仮名4文字を記入してください。

コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://yamamomo.asablo.jp/blog/2018/03/10/8800812/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。