会田弘継『追跡・アメリカの思想家たち』フランシス・フクヤマ2016-08-27

2016-08-27 當山日出夫

先日は、この本のエピローグから、漱石の『こころ』がアメリカでどう受容されているか、興味深かったので、ちょっと書いてみた。今日は、この本の本筋にあたるところを読んでみたいと思う。

やまもも書斎記 2016年8月24日
会田弘継『追跡・アメリカの思想家たち』夏目漱石『こころ』
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2016/08/24/8161273

会田弘継.『増補改訂版 追跡・アメリカの思想家たち』(中公文庫).中央公論新社.2016 (原著、新潮社.2008 文庫化にあたり加筆。)
http://www.chuko.co.jp/bunko/2016/07/206273.html

この本の著者(会田弘継)、思想史研究者という感じの人ではないようだ。略歴を見ると、共同通信のジャーナリスト、ワシントン支局長などをつとめている。と同時に、フランシス・フクヤマの著書の翻訳などてがけている。現在は、青山学院大学教授。

私自身、アメリカ思想史というのにはとんと疎い。いやそもそも、一般にアメリカ思想史ということがあまりない。(フランス現代思想とかならまだわかるような気もするのだが。)そのような状況をふまえて、この本自身が、現代アメリカ思想の概説的な紹介になっている。ここでは、やはり、著者が翻訳にもたずさわっているフランシス・フクヤマの章を見ておくことにしたい。(さすがに、私でも、この名前ぐらいは知っているので。)

フクヤマの思想の前提として、

「リベラルな民主主義(政教分離、言論・結社の自由などを維持して行う民主制)は近代化プロセスの必然だという主張である。それはキリスト教文明の下でなければうまく機能しないという考え方をフクヤマはとらない。伝統的保守主義者がしばしば、西欧政治思想の伝統の中で生まれた自由主義などは西洋でしか機能しないと考えるのとは異なる。近代化プロセスは米欧だけでなく、日本をはじめ東アジアでも機能しているし、トルコやインドネシアのようなイスラム圏の国でも機能し始めているとみる。」(pp.174-175)

それは、フクヤマが、

「近代を前近代、ポストモダンの立場から見つめ直したうえで、近代化プロセスの意味をつかみ取った思想家だとみてよいだろう。」(p.177)

であるからとする。そして、それが、

「そうしてつかみ取られた近代への執念こそが、ネオコンサーバティズムの本質といえる。」(p.177)

という。そして、そのような近代批判のあり方については、福沢諭吉や夏目漱石の思想の構造との類比が指摘してある。(p.186)

そのフクヤマについて、

「学問の世界がどんどんと狭い専門領域に閉じこもる時代に、こうした大きな構えで著作を世に問う学者はきわめて少なくなった。一人で通史を書く学者もまれだ。そうした意味で、フクヤマは貴重な存在であり、また学者というより思想家と呼ぶのが相応しい。」(p.206)

と評価したうえで、最近の著書『政治の起源』について、次のように紹介する。会田弘継は、この本の翻訳者でもある。

「フクヤマの叙述は、政治制度の歴史をギリシャ・ローマから中世ヨーロッパ、宗教革命を経て啓蒙思想によるブルジョア革命から産業革命――と、西欧中心にたどるのとはまったく違う。まず中国の秦の始皇帝がつくった中央集権化した強力な国家権力と能力本位の官僚制創設に政治制度における「近代性」の萌芽を見る。」(pp.206-207)

「古典的な近代観――宗教革命による自我の確立と個人主義の誕生、それをベースにした啓蒙思想による社会契約の思想の発展――を振り切って、フクヤマは近代の政治制度発展をまったく新しい観点で論じる道に踏み出すことができた。古典的な近代観を離れたからこそ、あえてギリシャ・ローマに帰る必要もなくなり、近代政治制度の発展の道筋を、大胆に、広く人類全体のさまざま政治制度のなかに探っていくことができたのである。」(p.207)

と、このように引用してくると『政治の起源』を読んでみたくなる。この本かと思う。

『政治の起源』上
http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062171502

『政治の起源』下
http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062171519

この本、いまから、夏休みの宿題にするには、ちょっと荷が重い。ちょっと待って冬休みの宿題ぐらいにしようかと思っている。

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