桜木紫乃『ホテルローヤル』 ― 2016-12-05
2016-12-05 當山日出夫
桜木紫乃.『ホテルローヤル』(集英社文庫).集英社.2015 (原著 集英社.2013)
http://books.shueisha.co.jp/CGI/search/syousai_put.cgi?isbn_cd=978-4-08-745325-6&mode=1
第149回の直木賞作である。
このところ、直木賞・芥川賞だからといって、買って読むことがなくなってきている。別に興味が無いわけではないのだが、その賞をとったからといって、特に買って読もうという気がしないでいる。それよりも、毎年、年末にだされる、各種の今年のミステリのベストの方が気になっている。(今年は、どの作品が、どのように選ばれるだろうか。)
本を読む生活をしたいと思うようになって、著名な賞をとった作品、ベストセラーの類は、「読んでいない本」が多々あることにあらためて気付く。おくればせながら、少しでも読んでみようかという気になっている。
今では、古書であれば、ネットで安価に買える時代になっているし。
この『ホテルローヤル』である。検索してみて、同じ名前のホテルが実際に存在することを知った。いかにもありそうな名前ではある。
この作品のことについては、川本三郎の本で知った。
やまもも書斎記 2016年11月09日
川本三郎『物語の向こうに時代が見える』
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2016/11/09/8244751
この川本三郎の文章に、私が何ほども付け加える必要はないと思う。この文庫本の「解説」が、『物語の……』に採録されている。
ただ、私なりに印象に残ったことを記しておくならば、読後感に残るのは、北海道、釧路の、空の色である。東京ともちがう、京都ともちがう、そしてまた、札幌ともちがう、釧路ならではの空の色である。
この作品は、ホテルローヤルという名のラブホテルの、顛末と、そこにまつわる人びとの物語の短編集。時系列では、逆順に配列してある。すでに廃墟となったところからさかのぼって、経営が傾きかけている状態、最後は、大きな夢をいだいてホテル経営にのりだす経営者の男の話。
私が読んで一番印象深いのは、「星を見ていた」である。これは、ホテルの清掃作業に従事する女性……それもかなり高齢の、話し。この作品にも、釧路の空は登場する。だが、晴れた青空ではない。星のまたたく夜の空である。
すこしだけ引用しておく。
「砂利に足を取られぬように坂を下り終えた。右に曲がり、灯りのない坂を上りかけたところでふと、空を仰いだ。林の葉も散って、空が広くなっている。月のない夜だった。冷えた空気のずっと向こうに、星が瞬いている。細かいものを見るのは駄目になったけれど、不思議なことに星の瞬きはくっきりと目に飛び込んできた。」(pp.177-178)
釧路というと、湿原をイメージしてしまうのだが、この小説に湿原の描写は基本的にない。そのかわりにあるのは、釧路の空、である。空の色で、釧路を表している。
そして、その釧路の空の下での人びとの生活が描かれている。その人びとの生活こそが、この作者の描きたかったものであることが、読むとつよくつたわってくる。
直木賞にふさわしい作品だとおもう。が、私個人のこのみからすれば、『ラブレス』の方が、いいかなという気はしている。
桜木紫乃.『ホテルローヤル』(集英社文庫).集英社.2015 (原著 集英社.2013)
http://books.shueisha.co.jp/CGI/search/syousai_put.cgi?isbn_cd=978-4-08-745325-6&mode=1
第149回の直木賞作である。
このところ、直木賞・芥川賞だからといって、買って読むことがなくなってきている。別に興味が無いわけではないのだが、その賞をとったからといって、特に買って読もうという気がしないでいる。それよりも、毎年、年末にだされる、各種の今年のミステリのベストの方が気になっている。(今年は、どの作品が、どのように選ばれるだろうか。)
本を読む生活をしたいと思うようになって、著名な賞をとった作品、ベストセラーの類は、「読んでいない本」が多々あることにあらためて気付く。おくればせながら、少しでも読んでみようかという気になっている。
今では、古書であれば、ネットで安価に買える時代になっているし。
この『ホテルローヤル』である。検索してみて、同じ名前のホテルが実際に存在することを知った。いかにもありそうな名前ではある。
この作品のことについては、川本三郎の本で知った。
やまもも書斎記 2016年11月09日
川本三郎『物語の向こうに時代が見える』
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2016/11/09/8244751
この川本三郎の文章に、私が何ほども付け加える必要はないと思う。この文庫本の「解説」が、『物語の……』に採録されている。
ただ、私なりに印象に残ったことを記しておくならば、読後感に残るのは、北海道、釧路の、空の色である。東京ともちがう、京都ともちがう、そしてまた、札幌ともちがう、釧路ならではの空の色である。
この作品は、ホテルローヤルという名のラブホテルの、顛末と、そこにまつわる人びとの物語の短編集。時系列では、逆順に配列してある。すでに廃墟となったところからさかのぼって、経営が傾きかけている状態、最後は、大きな夢をいだいてホテル経営にのりだす経営者の男の話。
私が読んで一番印象深いのは、「星を見ていた」である。これは、ホテルの清掃作業に従事する女性……それもかなり高齢の、話し。この作品にも、釧路の空は登場する。だが、晴れた青空ではない。星のまたたく夜の空である。
すこしだけ引用しておく。
「砂利に足を取られぬように坂を下り終えた。右に曲がり、灯りのない坂を上りかけたところでふと、空を仰いだ。林の葉も散って、空が広くなっている。月のない夜だった。冷えた空気のずっと向こうに、星が瞬いている。細かいものを見るのは駄目になったけれど、不思議なことに星の瞬きはくっきりと目に飛び込んできた。」(pp.177-178)
釧路というと、湿原をイメージしてしまうのだが、この小説に湿原の描写は基本的にない。そのかわりにあるのは、釧路の空、である。空の色で、釧路を表している。
そして、その釧路の空の下での人びとの生活が描かれている。その人びとの生活こそが、この作者の描きたかったものであることが、読むとつよくつたわってくる。
直木賞にふさわしい作品だとおもう。が、私個人のこのみからすれば、『ラブレス』の方が、いいかなという気はしている。
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