「『宇宙戦争』パニック事件、 75年目の真実 100万人をだましたフェイクニュース」 ― 2024-12-12
2024年12月12日 當山日出夫
ダークサイドミステリー 『宇宙戦争』パニック事件、 75年目の真実 100万人をだましたフェイクニュース
この番組は、メディア史的な観点から歴史上の著名な事件を再検討するということが多いので、私は好きな番組として見ている。この回は、いよいよメディア論としては、大御所というべき佐藤卓己の登場。もう一人は、ラジオパーソナリティの伊集院光。
ウェルズの『宇宙戦争』がラジオドラマとして放送され、それを信じた人がパニックになった……というのは、よく知られた「事実」である。だが、本当に一〇〇万人の人がパニックになって騒動になったかどうか、これは、後のでっち上げ、フェイクであることが判明している。その要因になったのは、この事件を調査分析した社会心理学者のキャントリルだった。
まず、ウェルズ原作の『宇宙戦争』のラジオドラマが、非常にたくみに演出されたものであったことが、紹介される。この番組を作ったのは、オーソン・ウェルズ。ラジオドラマとしてフィクションであることが最低限のところで分かるようにしてはあったが、しかし、それを聴く人がだまされることを、緻密に計算してのことであった。
このドラマへの反響について、その当時のアメリカの新聞社は、さらにフェイクを増幅した。通信社から送られてくるニュースを、誇張したり、でっち上げたりしていた。この時代、新聞社は、新興のメディアであるラジオを、低く見下すところがあった。(これは、まさに現代、「オールドメディア」とされるテレビや新聞がが、SNSなどを見下しているのと同じである。)
宇宙人がやってくるのにそなえて、銃を構える男性の写真は、いわゆる後から撮ったヤラセの写真だった。(だが、こんなことは、報道写真や映画の歴史については、よくあることでもある。)
メディア史的に注意しておくべきことは、この事件を調査したキャントリルの考え方のかたより、ということである。ラジオのフェイクニュースに人は簡単にだまされてしまう、この面を強調するか、あるいは、逆に、人はそう簡単にだまされるものではない、という面を見るのか、立場の違いによって評価が分かれる。人はデマにまどわされるものであるという研究結果となったのは、当時の新興メディアであったラジオについての関心があり、また、それを有効なプロパガンダの手段としているナチスへの警戒感もあってのことだという説明であった。
現代についてみれば、日本では、近年の選挙、東京都知事選挙、衆議院選挙、兵庫県知事選挙と、SNSの利用……視点を変えればフェイクニュースと悪用……について議論されることが多くなっている。SNSは、どれだ人間の行動に影響力をもつものなのか、改めて検証の必要がある。これについては、情報を発信し拡散しているのは、ほんのごく一部のユーザであることは言われている。また、AIを使ったフェイクニュースの拡散も、大きな課題となっている。
キャントリルの研究については、多くの人びとが新聞社などに電話をかけたことを、パニックになったからと考えるか、あるいは、情報の確認をしようとしたととらえるか、で評価が分かれることになる。また、ラジオを聞いた人のなかには、他のラジオでも同じことをニュースで言っているかどうか、確認した人もいたことが分かっている。この意味では、複数のニュースのソースにあたって確認することの意味ということになる。
現代、災害や戦争について、スマホが一つあれば、現地からのリアルタイムでのリポートが可能になっている。このような時代に、現地からの即時のリアルな報告というものが、人びとにあたえる影響力は、きわめて大きなものがある。(だからこそというべきであるが、月刊誌ぐらいの時間で余裕をもった分析や報告が価値のあるものになると思う。テレビのニュースを見ても、どの局も同じようなことしか報道していないというのが、現状である。また、局による違いがあるとしても、人は自分の見たいものしか見ようとしない傾向がある。)
それにしても、つい近年まで、ラジオドラマで一〇〇万人パニック説というのが、信じられていたことは、考えてみるべきだろう。メディアの力を過信していたかもしれない。だまされていた人のなかには、佐藤卓己も含まれるし、また、テレビの画面に映っていたテキストは、吉見俊也の名前もあった。
これからの問題の一つに、X(Twitter)で投稿の閲覧数によって報酬が得られるシステムが導入されたことがある。また、AIによるフェイク動画、ボットアカウントによる拡散も懸念することになる。
番組のなかでは出てきていなかったことばになるが、ネガティブケイパビリティ、ということを改めて考える必要があると思うのである。
2024年12月8日記
ダークサイドミステリー 『宇宙戦争』パニック事件、 75年目の真実 100万人をだましたフェイクニュース
この番組は、メディア史的な観点から歴史上の著名な事件を再検討するということが多いので、私は好きな番組として見ている。この回は、いよいよメディア論としては、大御所というべき佐藤卓己の登場。もう一人は、ラジオパーソナリティの伊集院光。
ウェルズの『宇宙戦争』がラジオドラマとして放送され、それを信じた人がパニックになった……というのは、よく知られた「事実」である。だが、本当に一〇〇万人の人がパニックになって騒動になったかどうか、これは、後のでっち上げ、フェイクであることが判明している。その要因になったのは、この事件を調査分析した社会心理学者のキャントリルだった。
まず、ウェルズ原作の『宇宙戦争』のラジオドラマが、非常にたくみに演出されたものであったことが、紹介される。この番組を作ったのは、オーソン・ウェルズ。ラジオドラマとしてフィクションであることが最低限のところで分かるようにしてはあったが、しかし、それを聴く人がだまされることを、緻密に計算してのことであった。
このドラマへの反響について、その当時のアメリカの新聞社は、さらにフェイクを増幅した。通信社から送られてくるニュースを、誇張したり、でっち上げたりしていた。この時代、新聞社は、新興のメディアであるラジオを、低く見下すところがあった。(これは、まさに現代、「オールドメディア」とされるテレビや新聞がが、SNSなどを見下しているのと同じである。)
宇宙人がやってくるのにそなえて、銃を構える男性の写真は、いわゆる後から撮ったヤラセの写真だった。(だが、こんなことは、報道写真や映画の歴史については、よくあることでもある。)
メディア史的に注意しておくべきことは、この事件を調査したキャントリルの考え方のかたより、ということである。ラジオのフェイクニュースに人は簡単にだまされてしまう、この面を強調するか、あるいは、逆に、人はそう簡単にだまされるものではない、という面を見るのか、立場の違いによって評価が分かれる。人はデマにまどわされるものであるという研究結果となったのは、当時の新興メディアであったラジオについての関心があり、また、それを有効なプロパガンダの手段としているナチスへの警戒感もあってのことだという説明であった。
現代についてみれば、日本では、近年の選挙、東京都知事選挙、衆議院選挙、兵庫県知事選挙と、SNSの利用……視点を変えればフェイクニュースと悪用……について議論されることが多くなっている。SNSは、どれだ人間の行動に影響力をもつものなのか、改めて検証の必要がある。これについては、情報を発信し拡散しているのは、ほんのごく一部のユーザであることは言われている。また、AIを使ったフェイクニュースの拡散も、大きな課題となっている。
キャントリルの研究については、多くの人びとが新聞社などに電話をかけたことを、パニックになったからと考えるか、あるいは、情報の確認をしようとしたととらえるか、で評価が分かれることになる。また、ラジオを聞いた人のなかには、他のラジオでも同じことをニュースで言っているかどうか、確認した人もいたことが分かっている。この意味では、複数のニュースのソースにあたって確認することの意味ということになる。
現代、災害や戦争について、スマホが一つあれば、現地からのリアルタイムでのリポートが可能になっている。このような時代に、現地からの即時のリアルな報告というものが、人びとにあたえる影響力は、きわめて大きなものがある。(だからこそというべきであるが、月刊誌ぐらいの時間で余裕をもった分析や報告が価値のあるものになると思う。テレビのニュースを見ても、どの局も同じようなことしか報道していないというのが、現状である。また、局による違いがあるとしても、人は自分の見たいものしか見ようとしない傾向がある。)
それにしても、つい近年まで、ラジオドラマで一〇〇万人パニック説というのが、信じられていたことは、考えてみるべきだろう。メディアの力を過信していたかもしれない。だまされていた人のなかには、佐藤卓己も含まれるし、また、テレビの画面に映っていたテキストは、吉見俊也の名前もあった。
これからの問題の一つに、X(Twitter)で投稿の閲覧数によって報酬が得られるシステムが導入されたことがある。また、AIによるフェイク動画、ボットアカウントによる拡散も懸念することになる。
番組のなかでは出てきていなかったことばになるが、ネガティブケイパビリティ、ということを改めて考える必要があると思うのである。
2024年12月8日記
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