『カーネーション』「ライバル」2025-01-26

2025年1月26日 當山日出夫

『カーネーション』「ライバル」

このドラマは、岸和田の小原糸子の物語であると同時に、岸和田の商店街のなかの小原の家の物語にもなっている。この週から、昔の呉服屋さんの建物がリフォームされて、一階の店の畳がなくなった。その奧の茶の間は、以前のままだが、店舗はいかにも洋裁店という雰囲気に変わっている。店の改装を象徴するのが、店内でひらかれたファッションショーということになる。

娘たちが大きくなり、ドラマのなかで重要な役割をになうようになってきた。まず、長女の優子が、家の後を継ぐか、東京の美大にいくかで、問題になる。結局、美大をあきらめて、洋裁の学校に通う。次女の直子は、絵の才能があることは確かだが、これも、原口先生(優子の東京での先生)に認められて、洋裁の道を目指すことになる。今のところ、三女の聡子はテニスに夢中であるが。

ここまで見てきたところで、組合長の三浦とか、北村とか、糸子のまわりにいて、糸子の生き方に影響を与える人物が配置されていて、その存在の描き方が実にたくみである。また、近所の商店街の人びと、特に、安岡のおばちゃんの存在が大きい。これらの人びとを通じて、糸子の生きてきた時代のいろんな考え方を描写することにつながっている。その多くは、昭和の戦前から戦後にかけて、普通に生活してきた人びとの思いである。その生活に即した感覚を、丁寧に描いているのが、このドラマの良さということになるだろう。

細かなことかもしれないが、ちょっとしたことがドラマにリアリティを与えている。一瞬しか映らなかったが、台所でわらび餅がお皿に盛ってあった。そして、優子と千代(だったと思うが)の会話が進んでいく。別に、わらび餅などなくても、話しをすればいいようなものかもしれないが、台所の仕事をしながらの会話ということで、生活感のある場面になっている。

直子と原口先生が、直子のこれからの進路について話しをする場面も、台所だった。壁にひびがはいっているのを、ペインティングナイフで修復しながら、原口先生は、直子に語りかけていた。日常の生活の場、仕事の場で、手を動かしながら、それとは関係ない将来の話しをしている。これは、アンバランスかもしれないが、人間の会話とはこんなもんだというところもある。このドラマの演出のたくみさの一つとして、このような、日常のしぐさと登場人物の会話が、絶妙におりこまれているというところがある。

ところで、糸子は、世界の最新のファッションを視野にいれて仕事をしている、というふうになっている。主に、ファッション雑誌から情報を仕入れているようだ。これはいいとしても、この時代の女性のファッションのみなもとの一つは、映画だったろうと思うのだが、このことは出てきていない。映画女優さんみたい……というのが、女性に対する最大級の褒め言葉だった時代である。(私は、かろうじて、この時代の雰囲気を憶えている。)いろいろ権利関係の問題もあって、映画をドラマのなかで描くことは難しかったのかもしれないとは思うが。

2025年1月25日記

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