『街道をゆく 近江散歩 奈良散歩』司馬遼太郎/朝日文庫2023-06-20

2023年6月20日 當山日出夫


司馬遼太郎.『街道をゆく 近江散歩 奈良散歩』(朝日文庫).朝日新聞出版.2009
https://publications.asahi.com/kaidou/24/index.shtml

元は一九八四年に週刊朝日に連載。その後、単行本になり文庫本になりして、今にいたっている。

NHKの「新 街道をゆく」の「奈良散歩」の回を見て、これがよかったので、本を読んでみることにした。まず、「奈良散歩」の方から読んだ。原作(と言っていいだろうか)を読むと、NHKの番組が非常によく作ってあることが理解される。

二月堂の修二会を軸にして、「兜率天」としての東大寺のあり方を、貴重な映像資料で追っていることになる。番組では、仏教史にまつわるいろんなことは削除されたことになるが、これは致し方ないことかと思う。

「近江散歩」は、読む順番が後になった。これもとてもいい。一九八四年というと、高度成長期後の日本であり、日本列島改造の嵐のふきあれた後のことになる。その時代の流れのなかにあって、それ以前の古き良き日本の姿を、この文章はとらえている。

琵琶湖というものの環境保全の重要さを、特に力説している。これが、一九八四年に書かれているということを思ってみると、この当時の司馬遼太郎の目の確かさ、それから、武村知事の環境行政の姿勢が、高く評価される。

その他、戦国の時代のこと、姉川の合戦とか、鉄砲鍛冶のこととか、好きな方向に自由に脱線していく。それが、読んでいて楽しい。その中におりこまれている、地域の風景の描写がいい。司馬遼太郎の文章の良さが発揮されている。

もう今になって司馬遼太郎の小説を読み返してみようという気はおこらないでいるのだが、「街道をゆく」シリーズは読んでみようかという気になった。週刊朝日の連載である。かなり自由に書いているし、自由に読めばいいだろう。小説ならば、余談として書かれるような話題が豊富である。それも、今の研究からすれば、ちょっと古めかしいかという気もしないではない。だが、この文章の書かれた時代、まだ私が若かったころのことになる。その時代の歴史学のあり方がどんなものであったか、書き残しておいてくれるという側面もあるかと思う。

この文章が連載された、週刊朝日ももうなくなってしまう。だが、「街道をゆく」はこれからも読み続けられていくことだろうと思う。

2023年6月19日記

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。

名前:
メールアドレス:
URL:
次の質問に答えてください:
このブログの名称の平仮名4文字を記入してください。

コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://yamamomo.asablo.jp/blog/2023/06/20/9595748/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。