新常用漢字:『かなづかい入門』 ― 2008-07-02
2008/07/02 當山日出夫
白石良夫.『かなづかい入門』(平凡社新書).平凡社.2008
これほど、簡潔に「かなづかい」ということを説明した本を、他に知らない。たしかに、日本語の表記・書記にかかわる専門書の類は、かなり出版されている。その多くは、日本語の歴史(それも、かなり古い時代)についてのものが多い。
近年、明治以降の言語研究のひとつとして「かなづかい」が、学会発表のテーマになったりしている。しかし、これも、やはり、専門の研究者向けである。 『かなづかい入門』についていえば、まさに、(新)常用漢字が議論されようとしている中で、この本が出たことの意義は大きい。
(新)常用漢字がどうなるにせよ、より広い範囲で考えるならば、それは、すくなくとも現代の、さらには、未来の「日本語の表記」を考えることにつながる。だが、「日本語の表記」という意識なしに、「この字がはいる/はいらない」「この字はいれるべきか」のレベルの議論が横行しているのが、実際ではあるかもしれない。
考えてみればすぐにわかる。漢字だけで日本語を書いているわけではない。ひらがな・カタカナ、それに、ローマ字、各種の記号類、それらを総合して、日本語の表記がなりたっている。
この本で対象としている、「現代仮名遣」と「歴史的仮名遣」を、「常用漢字(新字体)」と、「旧漢字(正字体)」の用語に、おきかえて読んでみると、面白い。というより、私は、そのように読んでしまったのであるが。
「歴史的仮名遣」が一種の虚構の存在であるならば、同様に、旧字体(正字体)も、虚構でしかない。このことが分からずに、いたずらに、「旧字・旧仮名遣」にこだわる人が多いのは、どうしてであろうか。
ともあれ、(新)常用漢字を考えるとき、必読の一冊であることは確かである。
當山日出夫(とうやまひでお)
コメント
_ kmns ― 2008-07-23 06時29分22秒
_ 上村知己(うへむら ともき) ― 2008-09-23 11時41分59秒
>「歴史的仮名遣」が一種の虚構の存在であるならば、同様に、旧字体(正字体)も、虚構でしかない。
同樣に「現代仮名遣い」と新字體も虚構でしかない。
判りきつたことでせう。そして虚構には虚構なりのルールがある。
>「旧字・旧仮名遣」にこだわる人
は、このルールを大事にしたい、と思つてゐるのです。假名遣について云へば、語源も語幹もグチャグチャに破壞するやうなみつともない表記は御免だ、言葉の遣ひ方を知らない幼兒ぢやあるまいし。社會生活を營む大人なんですから。
正字體に拘るのは何故かと仰る。それは新字體が不愉快だからです。當山さんの御名前を「正式に」当山と表記せよと強制されたら厭なものでせう。不愉快でせう。
再び假名遣について。「現代仮名遣い」は國語の組織(ルール)を破壞してゐますが、この組織の根幹をなす五十音圖については手前勝手に利用してゐるやうです。かういふ感想は私だけではなく、隨分古くからあるやうです。
以下、山田孝雄の「文部省の假名遣改定案を論ず」(大正十四年)より拔萃
<かくて又『ゐ』『ゑ』の廃棄よりして五十音圖と伊呂波歌とは當然廢棄せらるゝに至らむ。國民は果してこれを容認すべきか。今伊呂波歌は姑く措き、五十音圖の如きは國語の組織を説明せむが爲に案出せられしものにしてこれにより國語の理法に幾許の便宜を與へたりや量り知るべからず。然るに、これらの論者は多くは五十音圖の如きは舊時代の遺物と貶して學術上何等の價値なきものゝ如くいへるもの多し。然るに今の改革案にア列、イ列、ウ列、エ列、オ列、の名稱を用ゐるはこれ何ぞや。これらは實に五十音圖により起れる名稱にして、五十音圖を離れては意義をなさゞる語なるにあらずや。一方に五十音圖を破りながら、一方にそれにより認めらるべき述語を用ゐることその矛盾撞着も亦甚しといふべきにあらずや>
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_ kura.hanazono.ac.jp - 2008-07-03 08時28分38秒
本年(2008)の5月、各新聞や報道機関において、「(新)常用漢字表」(案)なるものが報道されました。 これについて、調べてみますと、そもそも「案」ですらない「素案以前のもの」��...
_ やまもも書斎記 - 2008-09-23 17時46分00秒
かなり以前に書いた『かなづかい入門』に言及した記事について、上村知己さんから、コメントをいただいているので、思うところを、いささか。
2008年7月2日
メルマガ『頂門の一針』
http://www.melma.com/backnumber_108241/
第1173號(08.5.3)記事「缺損五十音圖の復元を(二)」
第1175號(08.5.5)記事「缺損五十音圖の復元を(三)」
第1176號(08.5.6)記事「缺損五十音圖の復元を(四)」
第1177號(08.5.6夕刊)(記事 目次に缺落)「缺損五十音圖の復元を(五)」
第1178號(08.5.7)(記事)「缺損五十音圖の復元を(六)」
第1180號(08.5.9)(記事)「五十音圖の復活を(七)」
第1181號(08.5.10)(記事)「五十音圖の復活を(八)」
第1183號(08.5.12)(記事)「五十音圖の復活を(九)」
尻切れとんぼのものですが御一讀いただければありがたく一筆御案内申し上げる次第です。
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