『戦争と平和』(六)トルストイ/望月哲男(訳)光文社古典新訳文庫2021-12-25

2021-12-25 當山日出夫(とうやまひでお)

戦争と平和(6)

トルストイ.望月哲男(訳).『戦争と平和』(六)(光文社古典新訳文庫).光文社.2021
https://www.kotensinyaku.jp/books/book349/

続きである。
やまもも書斎記 2021年12月18日
『戦争と平和』(五)トルストイ/望月哲男(訳)光文社古典新訳文庫
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2021/12/18/9448741

六冊目(最終巻)である。

『戦争と平和』を読むのは、何度目かになる。これを、光文社古典新訳文庫の新しい版で読んで思うことは、まず何よりも、こんなにも面白い小説であったのか、という新鮮なおどろきである。何よりも、登場人物……ピエール、アンドレイ、ナターシャ、マリヤなどが生き生きとしている。

この作品が、世界文学のなかの名作として読まれてきている理由が、ようやく納得いったというのがいつわらざるところである。

以前に読んだ時には、この小説の歴史観というものにひかれて読んだかと思う。この小説の随所に、トルストイの歴史観が披露される。これはこれで面白いのだが、それよりも、一九世紀はじめのロシア貴族たちの日常の生活、戦争、恋、失恋、そして戦争……これらがダイナミックな、大きな物語を構成している。その物語の面白さ、ついつい読みふけってしまうところがある。

これは、新しい光文社古典新訳文庫版の、訳文の良さ、それから、ささいなことかもしれないが、栞としてついている登場人物一覧(家系図)、これによるところが大きいと感じる。なにしろ、登場人物が多く、そして、ロシア語の人名は分かりづらい。これを、栞の家系図を参照しながら読んでいくと、どの人物のことについて今語られているのか、さほど混乱することがない。

これは、もう一度読んでみたい。小説というものが、近代の西欧の文学の形式として作りあげられたものであるとして、この作品は、やはりその最高峰に位置するものの一つであると思う。(さらには、『アンナ・カレーニナ』もすばらしいと思う。)

登場人物は、ロシア貴族である。一般庶民ではない。だが、そのようなことを思って見ても、まさにロシア的としかいいようのない人びとである。このような作品こそ、あるいは国民文学(ロシアの)というのかもしれない。そして、これは、世界文学となっている。

それから、印象に残ることとしては、トルストイの文学にある、宗教的な深さというものがあるだろう。その宗教観に同意するかどうかは別にして、ここには人間のこころの深みある宗教というものへの深い洞察がある。これも、トルストイ文学の大きな魅力と感じるようになった。

まさに、古典文学であり、世界文学の名作であると強く感じる。

2021年11月6日記