『ブッデンブローク家の人びと』トーマス・マン2017-05-04

2017-05-04 當山日出夫

トーマス・マン.望月市恵訳.『ブッデンブローク家の人びと』(岩波文庫).岩波書店.1969
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下巻
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北杜夫の『楡家の人びと』を読んだら、この本が読みたくなった。いや、この本は、若いときに手にした経験がある。だが、途中で(最初の方で)挫折してしまったような記憶がある。

たぶん、あまりなじみのないドイツ語の固有名詞(特に人名など)が、たくさん出てくるし、登場人物の関係が、その人名だけからはわかりにくい。

今、この歳になってもう一度読んでみたくなった。今は、第三巻目である。

今回、読み返してみて、こんなに面白い小説だったのか、と認識をあらたにした。『楡家の人びと』を面白く読むことのできる読者なら、この『ブッデンブローク家の人びと』も面白く読めるにちがいない。ただ、最初は、やはりとりつきにくいところのある小説ではある。

この小説については、いろいろ言えるだろうが、ここでまず書いておきたいのは登場人物……トーニ……のことである。

若いころ、学生のころ、日本文学、世界の文学の中で、どのような人物が魅力的か、特に、どの女性が好きか、というようなことを話した記憶がある。そのころの私の読書の範囲内でいえば、『罪と罰』のソーニャとか、『それから』の三千代とか、『片恋』のアーシャとか、思い浮かんだものである。

もし、その時に『ブッデンブローク家の人びと』を読んでいたら、文句なしにトーニの名前をあげたにちがいない。

それほど、この女性は、魅力的である。いや、魅力的、といったのでは十分ではない。特異な個性、ある種の傍若無人ぶりがありながらも、かわいく、にくめない性格。あくまでも人生を肯定的に生きていく。おそらく、この小説のなかで、もっとも個性的で魅力的な登場人物はといわれれば、このトーニということになるにちがいない。

そして、このトーニの人物造形をどことなく引き継いでいるのが『楡家の人びと』の龍子と桃子というふうに理解していいのだろう。似ているというわけではないのだが、作品を牽引していく個性的人物、それも女性として、この存在は大きい。たぶん、北杜夫も、このトーニをかなり意識して、書いたにちがいないだろうと推測される。

小説を読むということ、文学作品にふれるということ……今では、もう、あまりはやらなくなってしまったことかもしれない。だが、ある程度歳をとってしまってから、昔、手にした小説を再び読んで、ああ、こんな人物がいるんだ、と面白く思えるというのも、この世の楽しみの一つであろう。

魅力的な登場人物にであえる楽しみ、それこそ、小説を読むことの醍醐味にほかならないともいえよう。

この作品について書きたいことは、まだあるが、それはまた改めて。読み終えてからのことにしたい。

追記 2017-05-05
このつづきは
やまもも書斎記 2017年5月5日
『ブッデンブローク家の人びと』トーマス・マン(岩波文庫)(その二)
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