島田裕巳『「日本人の神」入門』2016-06-28

2016-06-28 當山日出夫

島田裕巳.『「日本人の神」入門-神道の歴史を読み解く-』(講談社現代新書).講談社.2016
http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062883702

神道関係の新書本程度の入門書をいくつか読んでみたなかで、この本はよく書けているなと思う。わるい本ではない。ざっくりと日本の神道とはどんなもので、どんな歴史があるのか、ということを知りたい向きには、おすすめである。

古い神社の姿として、社殿が無いものを想定してみている。たとえば、大神神社とか、沖ノ島における古代祭祀遺跡などを例にあげる。神道の神として、八幡・出雲・天神など各種の神々について概説する。それから、神仏習合の歴史についても、わかりやすく説明してある。

ところで、私がこの本を読んで興味深く思ったのは、伊勢神宮についての記述のいくつかである。伊勢神宮については、このブログで、以前に書いている。

やまもも書斎記 2016年6月5日
『華麗なる一族』の風景
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2016/06/05/8102763

ここでも、島田裕巳の本に言及しておいた。

次の指摘は重要だろう。

「明治天皇の前に伊勢神宮に参拝した可能性のあるのが、持統天皇である。そのことは『日本書紀』に記されているのだが、可能性ということばを使ったのは、はっきりと参拝したとはされておらず、伊勢に行幸したとされているだけだからである。」(p.64)

伊勢神宮は、皇室の神様をまつったところである……というのが、一般の理解だと思う。しかし、歴代天皇は、伊勢神宮には参拝していないという。そのかわり、伊勢に「斎宮」がおかれていた。

いわば、敬して遠ざける、と理解しておけばよいだろうか。非常に重要な神ではある、しかし、その霊力が強いが故に、都(奈良・平安)からはへだたった伊勢の地に祭祀することになったと解される。

「明治天皇が伊勢神宮に参拝することによって、そこに祀られた天皇家の祖神としての天照大神との結びつきが改めて確認され、それは、明治になって新たに確立された天皇を中心とした国家のあり方がいかなるものかを知らしめることに貢献した。しかも、参拝の準備のために、伊勢神宮での神仏分離が徹底され、仏教寺院が破却されたことで、明治時代の新たな信仰のあり方が具体的に示されたのだった。その点で明治天皇の伊勢神宮参拝は宗教史上の一つの事件だった。」(p.242)

それから、現在普通におこなわれている神社の参拝の形式「一揖、再拝、二拍手、一揖」も、明治になってから定められたものである。(p.233)

それまでは、拝殿で合掌する、ぬかずくなど、多様な礼拝の形式があったようである。

「これは、江戸時代において、神社に参拝した場合にも、現在の作法とは異なり、拍手を打たなかったことを示している。」(p.234)

このことの証拠としてあげている資料は『伊勢参宮細見大全』。三重県立図書館デジタルライブラリーで見られるとある。調べてみると、次のURLだろう。

http://www.bunka.pref.mie.lg.jp/library/da-tosyo/detail?id=163163

なお、この本の第七章「人を神に祀る」で、柳田国男の『先祖の話』にふれてある。柳田の論を完全に肯定することはむずかしいが、否定もできないといったところである。

ところで、人を神に祀るといえば、靖国神社がある。この本では、(敢えてであろうが)靖国神社にはついては記述がない。それについては、

島田裕巳.『靖国神社』(幻冬舎新書).幻冬舎.2014
http://www.gentosha.co.jp/book/b7985.html

がある。靖国神社については、また改めて考えてみたい。

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