司馬遼太郎 雑談「昭和」への道「第十一回 江戸日本の多様さ」2023-11-20

2023年11月20日 當山日出夫

司馬遼太郎 雑談「昭和」への道 第十一回 江戸日本の多様さ

降る雪や明治は遠くなりにけり

この句を憶えたのはいつのころだったか忘れてしまった。ただ、学生のころ、授業中に池田彌三郎先生が、この句について語っておられたことは記憶している。

この回で印象にのこることは……司馬遼太郎が子どものころ、明治生まれの老人が昔の明治時代のことを、実に楽しそうに語っていた、という経験譚である。たしかに明治時代は、「女工哀史」の時代であり、「野麦峠」の時代であった。だが、江戸時代から続く多様性のなかで明治という時代が作られてきた。司馬遼太郎は、この回で、明治の前の江戸時代のことを高く評価している。

無論、江戸時代について、前近代の封建社会としてイメージすることもできよう。しかし、その一方で、司馬遼太郎が語るように、各地方、各藩ごとに多様な文化のはぐくまれた時代であることも確かである。その中から、富永仲基が生まれ、安藤昌益も生まれてきた。

現代においても「多様性」ということは強く言われる。だが、そこで主張される多様性はいかにも窮屈である。寛容であるべきだと、非常に強く高圧的に語るのは、ある意味で逆に不寛容でもある。日本ははたしてこれから本当に多様性を尊重する社会になっていけるだろうかと思ってしまう。

2023年11月16日記

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